残業手当と10割の附加金


Posted on 2月 20th, by admin in 事件の窓から, 弁護士の目. No Comments

 ある金融会社に勤めていたAさんは,毎日3時間ないし4時間の残業をしていたが,会社は残業手当を全然支給しなかった。

 それで,Aさんは,会社を退職してから,平成16年9月10日,会社を相手取って過去2年間の残業手当約245万円と付加金245万円を請求する裁判を起こした。2年間に限ったのは,賃金請求権の消滅時効は2年なので,それ以前の分は請求しても,時効消滅と言われたらそれでおしまいになるからである。

 Aさんの主張を裏付ける資料は,会社がタイムレコーダーを廃止してしまっていたので,Aさんが毎日日記に記帳していた出退勤時刻だけであるが,判決は,この日記を全面的に信用して請求金額の全額について支払を命じた (京都地裁平成17年3月30日判決)。

 それと同時に,特筆すべきことは附加金の支払も全額認めたことであった。
 付加金とは,労働基準法114条において,使用者が支払わなかった賃金の支払を求めて労働者が裁判を起こした場合,裁判所は未払賃金の支払を命じるのと同時に,それと同一額の付加金の支払を命じることができると規定されている金額である。

 条文では,裁判所はいつでも10割の附加金の支払を命じるように読めるけれども,判例では,「労基法一一四条所定の付加金は、使用者に労基法違反行為に対する制裁を課し、将来にわたって違法行為の発生を抑止するとともに、労働者の権利の保護を図る趣旨で設けられたものと解すべきである。そして、同条が付加金については、裁判所が『支払いを命じることができる。』と規定していることに鑑みれば、裁判所は、使用者による労基法違反の程度や態様、労働者の受けた不利益の性質や内容、右違反に至る経緯やその後の使用者の対応等の諸事情を考慮して、その支払命令の可否、金額を決定することができると解すべきである」(大阪地裁平成8年10月2日判決・労働判例706号45頁)と解釈されている。上記大阪地裁判決もそうであったが,実際には附加金の支払を命じない場合もあるし,認めても何割か減じて認めるケースが多い。
本件のように満額の付加金の支払が命じられたのはごく稀なケースと言うことが出来よう。

 なお,会社は,大阪高裁に控訴したが,大阪高裁でも満額の付加金は維持された(大阪高裁平成17年10月25日判決)。