まだあります、公益通報の問題


Posted on 4月 14th, by admin in 事件の窓から, 弁護士の目. No Comments

 このホームページに、「これでいいのか,京都大学の公益通報」という記事を載せましたところ、これを読まれたある女性が下記の記事を寄せて下さいました。

 不正や調査の不十分さは京都大学だけに問題があるのではなく,恐らくどこの大学も似たりよったりなのだろうと思っていましたが、現実にこういう文章を目にしますと,今さらながらに呆れたり、怒ったりしています。皆さまはどう思われますでしょうか。寄稿者本人のご了解を得ましたので、下記に転載させて頂きます。

 

川中法律事務所 弁護士 川中宏先生、國光甘雨先生

はじめまして。公益通報経験者です。 貴サイトで「これで良いのか、京都大学の公益通報」の記事を拝見し、どうしてもメールを差し上げたくなりました。 私は、京大と似たような国立大学の研究室で教授・助教授・助手の秘書として長年働いていた者です。 公益通報して失職しました。 公益通報制度はまったく機能しませんでした。

記事に「研究はすなわち錬金術なりと心得ているのかと文句を言いたく なる。」とのくだりがございましたが、皮肉ではなくそれはそのまま事実です。 錬金術のようなもの、錬金術同然、ではなく、そのまま錬金術なのです。

大学では、奇妙なことが山のようにありました。 私は、そのうちのひとつを通報したのですが、ひとつの通報は他の山ほどの不正と表裏一体になっているため、やればやるほど問題が雪だるま状になっていきました。 しかも、関係の監督諸官庁が、大学の守護神と化すばかりで、あるべき行政がまるでありませんでした。

結局のところ、その不正は私の働いていた大学だけがやっていたのではないのはおろか、霞が関じゅうでやってきたことらしく、そのため、公的機関のどこへ相談するにも通報するにも、利益相反状態をどうにもできないという不条理状態です。

この不条理をどうにかしてくれと、私は何年も国に言ってきているのですが、世にも馬鹿げた回答ばかりが寄こされ続けています。 たとえば、そういう想定をしていなかったのでお答えできないとか、あっせんならできるとか。 一体、何を「あっせん」するのかも理解不能ですし、想定外のことが起きているのなら尚、大変なこととして動かねばならないのに、公益通報でありながら、じゃあどこへ通報すべきかという問いにも公益通報制度で定めてられている「正しい通報先の教示」すらしません。

いずれにしても、大学が強度の深刻な違法行為をおかしていることには違いない事案だったため、行政がこの犯罪を刑事告発してくれるようにも求めましたが、「判断できない」ととにかく逃げまくりです。判断するのは警察当局なのだから、役所は犯罪と思料するだけでいいはずと指摘してもダメで、国家公務員法に定める公務員の告発義務をどれだけ説いても絵に描いた餅でした。

しかも、取りつごうとする先は、「大学支援室」云々なる窓口などで、とにかく火消し揉み消しの一途でした。 役所の部署名というのは中身をそのまま表すものですので、支援室といったら、大学を応援する部署でしかありません。

結局、貴記事で「文科省や京都府」に通報しても、調査は京都大学の監査室に丸投げされ不問となっていった道筋と、同じ本質です。 白痴的回答を沢山受け取っています。

そして、これをどうにかする機関というのが、無いんですよ。実質。 そしてせめてやれる部分すらも行政はやらずに抵抗し、歳月だけを強引に経過させ続けるという始末です。 これじゃあ、誰もどうにも出来ません。

おかげでこの問題のエキスパートにはなりましたが、ただその問題にオタク的に詳しくなっただけで、公益通報者としての人権と人生は滅茶苦茶にされたままです。 公益通報制度や公益通報者保護法でうたわれていることなど、ひとつも実行されず、何のためにある制度や法律なのか、心の底から疑問です。

私の働いていたその大学では、事務局の主要ポストに文科省の現職の職員や天下りみたいなのが在籍していましたし、事務局以外にもひと(他の省からなど)が来ていていたりもしていました。 ですから、所管省であっても、実態は「所管」ではなく、ある意味「当事者」です。 大学で不祥事があっても本省に火の粉が飛んでこないよう、水際で消火するために派遣されてる「火消し係」なんだと思います。 だって、そこにいて大学を指導して駄目なところをあらためさせるのではなく、大学と一体にになって事をもみ消すわけですから。 それに、大学の先生というのは、役所から行政委員などを委嘱されていまして、あらゆる分野で繋がっています。 また、同窓や同期の結束という作用も結構あり、職業を超えた世界ともなっていたりします。 そのうえ、やろうと思えば、錬金までできるわけです!

国立系大学の事務手続きはどこも同じなはずなのでお伝えしますが、大学の先生がたは、錬金しようと思えばいくらでも錬金できます。 それをするかしないかは、学内では、「本人の品」や「良心」次第という文化になっています。 貴記事で登場するNPOのスキームに対してまともな調査がないのは、おおかた官学業が結託してわざわざこしらえたカラクリだからじゃないかと思います。 NPOじゃなくて、独法のバージョンもあると思います。

それと、監査室から来た文書(調査結果)ですが、私も非常に似た経験をしています。 「ただただ唖然とするばかりである。さらに,添え書きは何を言わんとしているのか,さっぱり分からない。」や、「文章の意味が全然通じない」等々も、そのまま当時の私の心境です。 この文理のおかしい回答の類というものについても、随分問い詰めましたが(私のケースでは、大学のみならず役所もですが)、内容をわかっておらず全くの見当違いをしているのではなく、わかりきっているため、まともに答えることができず、わざと論点をずらしたり文意のおかしな回答を寄こしてきてることがわかりました。

京大は、仰られているとおり恥じるべきですし調査体制をあらためるべきではありますが、しかしながら、今更自浄作用を期待しても、私の働いていた大学と同じく京大はあらたまることはないと思います。 外からの強制力でもないと、どうにもならないようだ、というのが長年取り組んできた私の実感です。