国民投票法案の危険なカラクリ(その1)


Posted on 2月 20th, by admin in 憲法エッセイ. No Comments

 日本国憲法は,今年の5月3日で施行60周年となる。そういう意味で,今年の憲法記念日は特別の意義を持つが,なんと自民党はこの日までに改憲手続き法案=国民投票法案を成立させたいと公言している。安倍首相が,自分の内閣時代に憲法を変えたいという意向を示しているから,それに間に合うように制定を急いでいるようだ。憲法施行60周年の記念すべき年を改憲への第一歩とするというのだから,ふざけた話である。

 さて,自民党が制定を急いでいる国民投票法案だが,投票の方法,過半数の決め方,広報の期間・方法,運動の規制などどれを取っても問題が多い。

 まず,憲法は,憲法改正の要件として,各議院の総議員の3分の2以上の賛成で発議し,国民の過半数の賛成による承認を必要とすると定めているが,国民の過半数の要件を定めていないから,まずそれをどう規定するかが問題となる。

 国民の過半数について基準の高い方から順に並べてみると,

  1. (1)国民総人口の過半数
  2. (2)有権者総数の過半数
  3. (3)投票総数の過半数(無効票と棄権票は賛成ではないとして扱う)
  4. (4)有効投票数の過半数(無効票と棄権票は無視)

 となるが,自民党案では最も低い(4)案を採用している。

 憲法が,最終的に国民の過半数による承認を求めている趣旨を考えれば,憲法改正に賛成の投票をした人がどれだけいたかをカウントすべきであるから,本来投票に行った人も行かない人も含めてその過半数を取得しなければおかしいので,(2)であるべきである。少なくとも,投票に行った人の過半数を取得しなければならないとすべきである。

 さらに,自民党の(4)案だと,投票率が50パーセントだった場合,無効票が20パーセントと仮定すると,全有権者の20パーセント余の賛成で改憲案は承認されてしまう結果となる(50×0.8÷2=20)。投票率が60パーセントの場合でも24パーセント余で改憲案は承認されてしまう。

 つまり,有権者の80パーセント,あるいは76パーセントの人々が「憲法を変えることに賛成しない」結果が出ているにもかかわらず,国民の過半数の賛成が擬制され,改憲されてしまうのである。

 憲法という国の政治のあり方の根本を定める法律が,こんな少数の国民の賛成で易々と変えられるというのは,本来あってはならないことである。

 それで諸外国の例では,最低投票率や最低得票率を定め,これを上回らなければ国民投票は不成立,あるいは無効としている。イギリスやデンマークでは,投票総数の過半数で,かつ全有権者の40パーセントの賛成を得なければならないと定めているとのことである。つまり,投票率が50パーセントとすれば,投票総数の過半数をクリアすればいいのではなくて,有権者の40パーセントの要件をクリアしなければならないので,投票総数の80パーセントの賛成を得なければならないのである。

 我が国でもこのような最低投票率や最低得票率を絶対に定めなければならないと思うし,換言すればこのような規定のない国民投票法案は決して制定させてはならない。